鹿児島市にある総合病院の小児科医、玉江末広さん(57)は1月に診察した母子のことが忘れられません。

 けいれんを起こした1歳男児を診察した際、母親に「どうしてすぐ連れて来なかったの?」と強い口調で尋ねました。30歳くらいのその母親は急に泣き出し、打ち明けたといいます。「お金がなかったんです」。男児は前日にけいれんを起こしていました。けいれんは髄膜炎や脳炎に伴う恐れもあり、早く診察しないと命の危険すらあります。母親は懸命に子育てしている様子だったといいます。男児は幸い、一過性の熱性けいれんでしたが、診療費の工面に一晩悩んだろう母親の心中を察すると、玉江さんはいたたまれない気持ちになりました。

 「10年前と比べ、経済的理由で診察が遅れる患者が増えている。貧困は子どもの命を奪いかねない」。

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 経済低迷や非正規雇用の増加で「子どもの貧困」が社会問題化しています。1人当たりの県民所得が47都道府県中45位の鹿児島県は特に深刻です。山形大の戸室健作准教授が2012年の国のデータを基に「子どもの貧困率」(生活保護火の基準以下の収入で暮らす子育て世帯)を推計した結果、鹿児島県は20.6%で全国ワースト3位でした。

 子どもの貧困対策として行政はさまざまな施策に取り組みます。医療費助成もその一つ。現行制度では2~3割が自己負担ですが、全国すべての自治体に自己負担分への助成制度があります。

 たとえば鹿児島市。県の助成と合わせ2歳まで全額、3歳~中学3年は月2,000円を超えた分を助成します。鹿屋市も県分に上乗せして中3まで全額を助成。

 この助成のあり方をめぐり議論が続いています。鹿児島県内では、患者が医療機関の窓口で自己負担分を全額支払った後、市町村が助成額を患者の口座に振り込みます。ただこの制度だと、受診時にお金を用意できない保護者が子どもを医者にみせるのをためらう懸念があります。

 全国の主流は窓口での直接助成。鹿児島市の小学生は最大2,000円あればよく、鹿屋市では財布を持たずに病院へ行けます。

 しかし、鹿児島県は「たいしたことがないのに病院に連れて行く親が増え、医療費を増大させる可能性がある」として導入を否定。国も同じ立場で、直接助成する自治体には国民健康保険の補助金を減らす「ペナルティー」があります。

 それでも、窓口助成をしないのは全国で7県だけ。九州では鹿児島県のみです。同県保険医協会の2014年の調査では、小学生以下の保護者の74.3%が「子どもの受診時に経済的負担を感じた」と回答しています。

 3月県議会。医療費助成に関する質問に県の担当部長はこう答弁しました。「子どもの医療は親の責任。いざというときのために何らかの形で、医療が受けられる状態にしてほしい」。

 これを聞いた、鹿児島市で子育て中の女性(41)は「日々の生活に追われ、子どもの病気への備えすら厳しい家庭の実情を分かっていない」と憤ります。

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 子どもの貧困は教室にも暗い影を落とします。文部科学省によると、2013年度に県内で就学援助が必要とされた小中学生は21%で、全国平均(15%)を超え、九州では福岡(23%)に次ぎ2番目に多いです。10年前の13%から1.6倍に増えています。

 朝食が取れずいらいらして同級生とトラブルを起こす男児▽家賃が払えず、母親とラブホテルを転々とする兄弟…。鹿児島市の小学校の女性教諭(36)は「こうした境遇の子はどのクラスにもいる」と明かします。

 そんな児童、生徒に温かい食事を無料提供する「子ども食堂」が24日、鹿児島市の玉里団地福祉館に県内で初めて開設されます。準備を進める斎藤美保子・鹿児島大准教授は言います。「貧困に苦しむ子どもを救うのは行政にも責任があるが、動きが鈍い。子ども食堂を地域で取り組むことで行政の意識を変えたいんです」。